呼吸療法の歴史

最近では呼吸療法という言葉をよく耳にしますが、その歴史をご存知でしょうか?
物事が進化・発展していく過程において、その歴史を知ることは非常に重要です。
過去を知ることで、それらが発展した経緯を紐解き、更なる発展のヒントになります。

呼吸療法の始まりは1700年代の溺水患者に対する口対口人口呼吸とされています。
今でこそスタンダードな方法ですが、これが後の1960年以降に一次応急処置として取り入れられることになります。

1930~1950年にかけて欧米で大流行したポリオに対しては“鉄の肺”と呼ばれるタンクベンチレーターによる呼吸管理が行われました。
しかし、救命率が低いという結果からカフ付き気管チューブ挿入下の用手陽圧人工呼吸が脚光を浴びました。

その後、人口呼吸の適応は術後管理から呼吸不全にまで拡大しました。
従圧式、従量式人口呼吸器が次々に開発され、多くの換気様式が考案されました。
代表的なものに呼気終末陽圧(PEEP)を付加した持続的陽圧換気(CPPV)があります。
最近では、ある程度の高二酸化炭素血症を容認する低1回換気量と低酸素血症の程度に応じたPEEPを付加する保護的肺換気が注目されています。

このように、現在私たちが用いている方法・手段は過去の失敗や試行錯誤の上に発展してきております。

呼吸器疾患と医療費

皆さんは年間の国民医療費がどのくらいかかっているかご存知でしょうか?
平成21年度のデータでは、3667億円かかっております。
これは年々増加の一途を辿っております。

疾患別にみると、1位は循環器疾患で全体の約20%2位は悪性新生物で全体の約12%3位は呼吸器疾患で全体の約8%となっています。
更に呼吸器疾患の中では、急性上気道感染症、気管支喘息、肺炎、肺癌、COPD、結核の順になっています。
特にここ最近では、COPDと肺癌の増加が著しくなっています。
これらの背景には、生活習慣や環境などがあると思われます。
現時点では第3位ですが、今後は更に増加してくることが予想されます。
従って、呼吸リハビリテーションが必要な方も増加します。

適切なリハビリテーションを行うことで医療費の圧迫を減らすことが可能です。    

パルスオキシメーターについて

パルスオキシメータによる測定は、色素が解けた液体を光が透過するとき、光はその物質の濃度と進む距離に比例して吸収されるという、Lambert-Beerの法則というものを利用しています。
つまり、指先に装着したプローペと呼ばれる部分から発せられるレーザー光の吸収度が酸素と結合したヘモグロビンとそうでない場合で若干異なることを利用して、動脈血の酸素飽和度を計測します。

 


計測には動脈血のほか、組織や静脈血、動脈の拍動などさまざまな因子を利用し、また、パルスオキシメータで測定されるのはヘモグロビンの酸素飽和度であることから、ヘモグロビンなども大きく関係してきます。パルスオキシメトリでは、種々の原因によってSpO2の測定に影響が出ることが知られています。

・プローペの装着不良

・体動や室内光などの外部からのノイズ

・末梢循環不全、不整脈

・異常ヘモグロビン(一酸化炭素、メトヘモグロビン)

・ネイル

など、そのほか様々な因子が数値に影響を及ぼしています。すぐに修正可能なものもありますが、循環不全や貧血がある方、一酸化炭素中毒の方など本当にその示しているSpO2の値を信じていいのか?血液中で酸素と結合するはずのヘモグロビンの量が足りているのか?末梢循環不全のためにそもそも測定自体が十分に行えていないのではないのか?など他にも色々と疑わなければならないことがあります。SpO2の値は患者様の低酸素状態をより早期に的確に発見できるため、臨床では大切な評
価のひとつです。

人工呼吸ー呼吸サイクルの構成要素ー

人工呼吸は、人工的な機器を用いて呼吸機能を代用したり補助するものです。しかし、実際に行っているのは肺でのガス交換過程のうちの主に換気の部分であるため、最近では「人工換気」と呼ばれることが多くなりました。

人工換気はベンチレータ(人工呼吸器)から送り出した吸気ガスで肺を膨らませて、ガス交換を終えたガスを肺胸郭の弾性を利用して呼出させるサイクルの繰り返しです。

このサイクルを4つの相にして考えると、ベンチレータの作動様式が理解しやすくなります。

1相目「吸気開始相」
ベンチレータの呼気弁が閉じ、吸気弁を開いて吸気を送り始める相

2相目「吸気相」
ベンチレータから吸気ガスを供給して肺を膨張させる相

3相目「呼吸開始相」
ベンチレータの吸気弁が閉じ、呼気弁を開いて肺胞気の呼出を開始する相

4相目「呼気相」
呼気弁を解放し、ガス交換を終えた肺内ガスを呼出させる相

以上がサイクルの4つの相になります。この各相のなかに、いくつかの様式がありそれぞれが組み合わさって、対象となる患者様に合った人工換気法が実施されています。

人工呼吸−吸気開始層−

ベンチレータによる呼吸サイクルの構成要素についてお伝えしました。(4相に分けて考えると分かり易いという話でしたね。)

今日はその中でも1相目にあたる「吸気開始相」についてお伝えしたいと思います。

この相は、ベンチレータの呼気弁を閉じ、吸気弁を開いて吸気ガスを送り始める相でしたね。

吸気を開始するためには2つの方法があります。

①時間サイクル式
この方法は、患者様の自発呼吸の有無に関わらず、ベンチレータ上に設定した一定の呼気時間が終了すると吸気へ移行する方法です。
CMV(間欠的に陽圧を加えて肺を膨らます調整換気)や、IMV(間欠的強制換気)で用いられているもの。

②患者サイクル(トリガー)式
患者様の自発呼吸の開始に同調させて吸気を開始する方式です。患者様の吸気開始の認識には、吸気運動に伴う気道内圧の低下(圧トリガー式)や、気道流速の発生(流量トリガー式)を利用しています。あらかじめ、これらを一定値に設定しておき、その閾値に達したときにベンチレータの呼吸弁を開閉して吸気ガスを送ります。

食後の眠気とpHの関係

国家試験、呼吸療法認定士試験に必ずpHの問題が出題されます。
しかし、酸塩基平衡って少し苦手意識がありませんか。

今回は例題を通して少し説明させていただきます。

ほとんどの方が「食後に眠くなる」という経験をされているかと思います。
そしてその原因は、「食事中や食後には胃や腸などの消化器官に血液が多量にいくため、脳の血液が少なくなるから」と、思っている方が多いのではないでしょうか。

しかし実際は、『pH』が大きく関係しています。
食後に眠くなる主な原因は、食事によって血液のpHが高くなり呼吸が抑制されるためだと考えられます。

食事中に分泌される胃酸にはHClが含まれます。
このHClは、
CO₂+H₂O ⇒ H₂CO₃⁻ ⇒ H⁺+HCO₃⁻
となり、このH⁺がCl⁻と一緒になり分泌されます。
この時、血液にはHCO₃⁻とNa⁺が残ります。

つまり、食事によって血液中のH⁺が少なくなるのでpHは高くなります。
pHは高くなると呼吸を抑制する作用があるため、呼吸抑制が働き酸素摂取量が少なくなってしまいます。
そのため、食後には脳が酸素不足になって眠くなるのです。

要するに、「食後に眠くなるのは、胃酸が分泌されるために血液のpHがアルカリ性に傾き、呼吸が抑制されるため」というわけです。

その後は消化ホルモンによって徐々に血液のpHがもとに戻って呼吸ももとに戻るため、脳の酸素不足が解消されて眠気が取れていきます。

私たちの身近な出来事にもpHが大きく関わっています。

肺がふくらむ仕組み

呼吸を行う上では肺が膨らんだり、しぼんだりする必要があります。
肋骨の走行は上部胸郭では水平に近く、下部胸郭では前下方に斜走しています。
吸気時には外肋間筋などの呼吸筋の収縮により、肋骨は後方の肋椎関節を軸として前上方へと回転します。
そのため胸腔の水平断面積は大きくなります。
この吸気運動は横隔膜の収縮と連動して行われます。
従って、吸気時には胸腔は水平横断面とともに上下方向に拡大します。
胸腔内は常に陰圧になっています。
吸気時には胸腔が拡大することで胸腔内の陰圧が増強して肺が膨張します。
これが肺が膨らむ仕組みとなっています。
そのために呼吸リハビリテーションでは胸郭の可動域を確保しておくことが大切になります。

肺血管系の解剖1

肺血管系の中でも肺循環系の解剖についてです。

肺は肺循環系と大循環系の2系統の血管をうけています。
肺循環系はガス交換に関与する肺動脈・肺静脈です。大循環系は気管支・肺を栄養する気管支動静脈です。

肺循環系では、肺動脈として右心室から出て肺に入り、肺胞の毛細血管を経て肺静脈として肺から出て左心房に戻ります。

肺動脈は右心室より1本の肺動脈主幹として出て、すぐに左右に分かれて左右肺動脈として肺に入ります。
肺に入ると、複数の枝を分岐しますが気管支に伴走しつつ気管支とともに枝分かれして肺全体の肺胞毛細血管に達します。

肺静脈は肺毛細血管からの血液を集めて肺門に向かいますが、気管支には伴走せず、小葉間あるいは区域間を肺門に向けて走ります。
肺門にて上下2本の太い静脈として肺から左心房へと入ります。

呼吸リハビリテーションでは、血管系の解剖や血流の状態を考慮して進めていくことも大切になります。

肺血管系の解剖2

肺は肺循環系と体循環系の2系統の血管をうけています。
肺循環系はガス交換に関与する肺動脈・肺静脈です。
体循環系は気管支・肺を栄養する気管支動静脈です。

体循環系では、気管支動脈は通常は下行大動脈より分岐します。
まれに、上部の肋間動脈や左右鎖骨下動脈から分岐する枝もあります。
左右それぞれ1~2本の枝として、下行大動脈より分岐して気管支に沿って肺に入り、気管支から細気管支に至る気管支壁に分布する栄養血管です。

気管支動脈の血流量は健常人では心拍出量の1~2%です。
しかし、気管支拡張症や肺の炎症疾患では気管支動脈は拡張して血流が増加し、血痰・喀血の原因となるほか、気管支動脈と肺動脈との間にシャントを作ることがあります。

気管支静脈は気管支動脈によって運ばれた血液を心臓に戻すための血管ですが、走行は明らかではないところが多いです。
肺内の気管支静脈は主として肺静脈に入り左心に還流します。
また、気管支静脈の一部は奇静脈または半奇静脈に入り右心に戻ることが知られております。

呼吸リハビリテーションでは、血管系の解剖や血流の状態を考慮して進めていくことも大切になります。

ARDS (acute respiratory distress syndrome)

近年、芸能人などが罹患していたこともありARDSという診断名を聞いたことがある方も多くいらっしゃると思います。

呼吸療法認定士の試験でもARDS(急性呼吸窮迫症候群)の問題は出題されます。特に診断基準などが出題されることが多くありますので覚えておくと良いと思います。



約30年前、米国のペティ教授が、交通事故などの外相患者、大きな手術後の患者、敗血症患者など、直接呼吸器系に関係ない患者の一部が、非常に強い呼吸困難と低酸素血症(PaCO₂の上昇を伴わない)に陥り、胸部X線では両側全肺野にわたって異常な陰影が出現することを発表し、ARDS(adult respiratory distress syndrome)と名付けました。



ARDSは、何らかの原因により、肺毛細血管の透過性が亢進して、血管内の水分が多量に間質、細胞内に漏れ出てくる病態です。



ARDSの患者は、強い呼吸困難を訴え、呼吸数が増加していますので、血液ガスでは著名なPaO₂の低下と、中等度のPaCO₂の低下がみられます。この低酸素血症に対して、50%以上の高濃度の酸素を投与してもなかなか改善しないのも特徴です。



診断基準としては、

①PaO₂/FIO₂<150

②胸部X線上、両側びまん性浸潤陰影

③PCWP<18mmHg

④ARDSの原因となる臨床経過がある



このほかに、ペティ教授の診断基準もあります。

①ARDSの原因となるべき臨床経過があること(ただし、COPDと左心不全を除く)

②呼吸数:20回以上/毎分

③胸部X線上、両側びまん性浸潤陰影

④PaO₂<50mmHg(FiO₂>0.6)、コンプライアンス≦50ml/cmH₂O シャント率と死腔換気の増加



呼吸療法認定士の試験では、様々な診断基準が出題されることが多いので、その病態の診断基準を覚えるようにしましょう。